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水戸地方裁判所 昭和53年(行ウ)10号 判決

原告

株式会社広沢製作所

右代表者

広沢謙次

右訴訟代理人

原則雄

被告

下館市長

濱野正

右訴訟代理人

宮田治

被告

河間土地改良区

右代表者

小島恪

外五名

主文

一  原告の被告下館市長に対する、同被告が昭和五二年六月三〇日付でなしたところの別紙物件目録(一)記載の土地に対する公用廃止処分及び同処分に関する告示がいずれも無効であることの確認を求める訴えを却下する。

二  原告のその余の請求を、いずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一(本件処分及び告示の無効確認を求める訴えの適否について)

1  本件係争土地がもとの下館市の所有であり、下館市道(二〇四九号線)として公衆用道路の用に供されてきたこと、及び被告市長が昭和五二年六月三〇日、道路法一〇条一項により、右市道につき公用廃止(路線の廃止)の本件処分を行ない、その旨の本件告示をしたことは原告と被告市長との間では争いがない。

しかして、市道等の道路は、一般交通の用に供することを目的として設置された公共施設であり、一般公衆はこれを利用する自由を有するが、右の自由は、道路設置により一般交通の用に供されたことの結果として享受することができる反射的利益にすぎないものであり、特段の事由なき限り、一般公衆がその利用によつて道路に対し特定の権利又は法律上の利益を有するものではないものといわなければならない。

したがつて、公用廃止(路線廃止)処分により、一般公衆が受けるところの、当該道路を通行できなくなることの不利益をもつて、一般公衆が当該路線廃止処分の無効確認請求を行なうことはできないものと解するのが相当である。けだし、行政処分の無効確認を求めうるのは、「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等につき法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法三六条)に限られるところ、一般公衆の当該道路を通行しうる自由が、道路設置による単なる反射的利益にすぎない以上、右自由は、路線廃止によつて当然消滅すべき自由であるから、右自由を失なつたからといつて、これをもつて損害を受けるものとはいえないし、かつ又、道路通行の自由が反射的利益であることは、すなわち当該自由をもつて、「法律上の利益」とはいえないものであること前記のとおりであるからである。

この点について原告は、道路廃止により事実上の利害関係を有する者に対しても広く原告適格を認めるべきである旨主張するが、にわかに左袒しえないものといわなければならない。

2  なお、原告は、原告適格を有する事由として、原告が単に一般公衆にとどまらず、本件市道に対し特別の利益(すなわち、慣習上認められた地役権又は公法上生ずる通行権)を有していた旨主張するが、これを肯認できる証拠もないので、いずれも失当である。

すなわち、まず、原告は本件市道を原告の裏口通路として利用してきたところ、これの廃止により、従業員の通行や諸製品、材料の搬入、搬出等に不便をきたし、ひいては原告工場の経営上重大な支障をきたす旨主張する。しかし、〈証拠〉によれば、原告の工場は国道五〇号線に直接面しており、かつ工場の周囲にも舗装された道路があること及び本件市道は、幅員約二メートルの農道様の道路であつて、自動車の往来には不便であることが認められ、これらの事実からすれば、本件市道の廃止により原告が経営上の不利益をこうむるとは到底認めがたいばかりでなく、仮に何らかの不利益があるとしても、それは一般公衆が受ける不利益を出るものではないことは明らかである。

次に、原告は、本件市道と被告中野ら所有地との境界下部に原告の費用をもつてコンクリート防壁工事を行ない、これを所有しているところ、本件市道の廃止により、この所有権が侵されるかのような主張をしている。しかし、本件市道の廃止が右コンクリート壁の所有権の帰属に何らの変動をきたすものではないことは明らかであり、原告が、コンクリート防壁の敷地に何らの占有権原をもつていれば、これを従来どおりの形態で所持しうるのであり、敷地に対し何らの占有権原がないのであれば、それは不法占拠であつて、本来撤去しなければならないのであつて、要するに、本件市道が存続するか廃止されるかということと、原告が右コンクリート防壁を従来どおり所有しうるか否かということとは無関係なことがらである。

さらに原告は、被告中野ら所有地の本件市道側一角を被告中野らから賃借し、これを原告の工場廃水の排出地としているところ、本件市道の廃止により、右賃借権が侵害され、なおかつ右廃水が一層広範囲に排出されることになり、ひいては被告中野ら所有地のみならず付近一帯の環境全体にも悪影響を及ぼす旨主張している。しかし、原告が被告中野ら所有地の一角を賃借している事実を認めるに足りる証拠はない(かえつて〈証拠〉によれば、原告は、被告中野らに対し、損害金として昭和五二年から年一〇万円宛を支払つてきている事実が認められる。)ばかりか、仮に右賃借権が存在するとしても、本件市道の廃止処分は、右賃借権に何らの影響を及ぼすものではない。また、本件市道が、原告の工場廃水の拡散を防止することを目的として存在していたものでないことは、道路の性質からして自明であり、そうであるとすれば、本件市道の廃止と工場廃水の拡散とは全く無関係のことがらであるばかりでなく、そもそも工場廃水の流出を防止するのは原告自身の責務であり、これによつて環境の悪化等を招くとすれば、この責任は廃液を流出させた原告が負うべきものであつて、本件市道の廃水に帰せられる筋合のものではない。原告の右主張は、自己の責任を他に転嫁せんとするものであつて、著しく失当である。

3  次に、原告は、本件市道の公用廃止たる本件処分の本件告示について、その無効確認を求めているが、右告示が行政事件訴訟法において無効確認訴訟の対象となる処分といいうるか否かはひとまず措くとしても、前記のように告示の前提たる公用廃止の本件処分につき原告に原告適格がない以上、これと同様の理由により右処分を一般に知らしめるための本件告示についても、原告はこれの無効確認を求めうる適格性を有しないものといわなければならない。

4  以上のとおりであるとすれば、原告の公用廃止たる本件処分及び同処分の本件告示の無効確認を求める本件訴えは、いずれも不適法であつて、却下を免れない。〈以下、省略〉

(龍前三郎 新崎長政 大澤廣)

物件目録〈省略〉

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